DQXと節分2021年02月02日 22:50

生き馬の目はデルメゼに抜かれ、妥協でシドーに挑みし者はベホマで切り捨てられる大都会アストルティア。
ここはそんな過酷世界アストルティアの果ての果てにある山奥の一軒家。家の主以外は人がほとんど寄り付かないこの場所に珍しく若い女が一人訪ねて来たのだった。


…コンコン。
女は静かに古びた戸を叩いた。


「突然すみません。予期せぬ雨が降って来たものでこちらで雨やどりをさせていだきたいのですが」

程なくして戸の内側から主の対応する声がした。

「あー、こげな辺鄙な山奥に一人でようきんさったなぁ! 道中大変じゃったろうに、さぁさぁ遠慮せず雨やむまで入っとりんさいや」(※1)

「ありがとうございます。それではお言葉に甘えまして…」

そして女が家の敷居を跨いだ瞬間であった。
女は禍々しく巨大な鬼に化けたのだ!!

「ひょ、ひぇえええ!アンタ、なにもんだりゃあ!!」

ぶわははは!この節分の日に鬼を家に入れる愚か者がまだおろうとはなぁ!」

鬼は勝ち誇ったように、豆粒みたいな家の主を見下ろしながら言った。

「このネット社会において貴様は防犯意識が低すぎるようじゃのう!ドラテンならセキュリティートークンを導入し、カード会社のパスワードは第2パスワードを設定し、SNSで余計な事を探られないように鍵アカウントにするのはこの世の常識になっておるというのに、かように中に入り込めて草が生えるわ!w」

「う、ううう…。気楽なひとりもんの身で月日の感覚がわからんかった…。節分やったんか…」

「貴様のお馬鹿加減に免じてひと思いに一撃であの世に送った後に食ろうてやるわ! しねぇえええい!

鬼はそう言って大きな棍棒を振り上げた!

「ひょえええ!まって!まってくださりませーー!私を生かしておけば鬼様にとって、きっとお役にたてることもございますらばーー!」

家の主が懇願すると、意外にも鬼は棍棒の動きを止めて家の主に向き合った。

「ほーーぅ。こんなみすぼらしい家に住んでいて住民票のコマが勿体ないから早く消えろと市役所職員に嘆かれるような存在のお前が役にたつというのはどういうことだ。申せ」

「へえ!実はこんな辺鄙なところに住んでいるのは、マイタウンの資金を貯めるべく限界まで節約しておるからなのです」

「ほう」

「毎日来る日も来る日もキラキラを集めシコシコと結晶装備を作りまくった結果、もうすぐマイタウンが買えそうなんでごぜえやす!」

「ほうほう」

「ご存知の通りアストルティアはゴールド至上主義。運営様に対する広場の提案は最低でもラッカランに住んでいる者からの提案しか相手にされません!(※2)5大陸に住まう人間の意見なんぞそのままゴミ箱行きです!」

「ほうほうほう」

「そこで、上級国民の証たるマイタウンを購入する事で私の地位は満貫ドラ10跳ね役満というわけですから、それにより表から裏からアストルティアを牛耳る事が出きるようになります!」

「そうなれば、ほら、兄さんの役に立ちそうざんしょ?」

面白い発想だ!貴様の命預かってやろう!」

「へへぇー!有り難き幸せー!」

「実はな、ワシは憂いておったのだ!このゲームが節分(※3)というイベントを全く活かそうとせんのを!!

「確かに!しかし、節分は鬼が悪役になりますけどいいんですけぇ?」

馬鹿者!あんなもんは茶番じゃ!!子供たちを満足させて催し物が終わった後で皆で一杯やるあのひと時が最高なんじゃろうが!!」

「へへぇ!すんません!」

「そもそもドラゴンクエストにはワシや”鬼小僧””鬼こんぼう”など、節分というイベントに相応しい役者が幾人も揃うておる!!」

「なのに何故節分イベントを開催しないのか!!腐った死体が出てくる七夕イベントとかはある癖にだ!!おかしいだろ!!

「まったくもってその通りでごぜえますな!こりゃあアッシもさっさとマイタウンを購入して提案広場で青山プロデューサーに直談判せねばなりますまい!!」

「うむ。そう言う事だ。豆男よ、来年進捗を聞きに来るからな!任せたぞ!」

「合点承知の助!」


…。
……。
………。

月日は流れ…。丁度一年が過ぎた。
山奥の家の主は首尾よくマイタウンを買っていた。
しかし…。提案広場で節分イベントの事など書き込んではいなかった。

たのもーう!

「立派な家に住んでいるな…。おい、約束の節分イベントの提案はどうなったんだ?」

「……」

「なんだ?なぜ黙っている!」

「クックック…」

「!?」

「そんな面倒くせえことやりゃあしませんよ、ダンナ」

「なんだと!?」

「冒険者のオレをあの時見逃したのがダンナの運の尽きさ。あの頃はまだ職人中心の生活でレベルを上げていなかったが、この1年の間で他の冒険者からメタキンコインを買ってMAXレベルまで上げ切ったのさぁ…。今じゃあ俺はアンタよりムキムキモリモリドラゴンクエストな冒険者さぁ…」

「じゃ、じゃあワシとの約束は…」

「てめぇみてぇなコインが店売り6000Gで買える遥か昔の雑魚ボスの戯言なんか聞くかっての!鬼は外だ!さっさといね!!ハイ、お帰りはあちらーー!!!

貴様ぁ!たばかったなぁーーー!!!

オラァッ!刀のサビにしてやんぜーーー!!!

そのとき ふしぎなことが おこった。

なんと鬼の境遇と家の主のサイコパスぶりに見かねた創造神Hが究極魔法「アワジシマ」(※4)によりこのシーンをイベントシーンに定義し、鬼の持つこんぼうに不思議な力を与えた。
なおイベントシーンに定義された場面で死んでしまった場合、ザオラルなどのご都合主義な力でよみがえる事は出来なくなりゲームから退場する。これは冒険者キャラといえど同じである。


ブォーーーーーン…


グワシャーーーァァアアッッ!!!!!

「ギャアアアアアアアア!!!!!」

果たして先手の鬼が振りかぶったこん棒は家の主の脳天へと直撃し、つうこんのいちげきはレベルMAXの体力などものともせずに、ふしぎなちからにより姑息にも天使の守りで保険をかけていた家の主のバフを全て吹っ飛ばして1撃で命を刈り取った。

「うぉぉぉおおおおおん!!!」

山には叫びとも嘆きともとれない鬼の咆哮が長い間こだましたのであった。
節分の日は鬼が入ってこないように豆まきをしましょうね。

【とどのつまり】 (↓クリックorタップでめくれます↓
ざんねん!!
 



~~オマケ・どうでもいい注釈~~
※1 「あー、こげな辺鄙な山奥に一人でようきんさったなぁ! 道中大変じゃったろうに、さぁさぁ遠慮せず雨やむまで入っとりんさいや」
あらら、こんな辺鄙な山奥に一人でよくおいでになりましたね!
道中大変でしたでしょう、さあ遠慮はせずに雨のやむまで入っていて下さいね。

※2 ラッカランに住んでいる者からの提案しか相手にされません!
そんなことごぜえません。安心してください。

※3 節分
筆者は昔から節分が好きなのですが、マイナーな扱いで恵方巻ばかりクローズアップされている現状が悲しいので、気が向いた年は拙文の日として節分にちなんだ拙文を書いています。
何気に2005年からこの活動は始まっていて、実は今回9回目(だったはず)。いつか節分の同人誌でも作るか(ねーよ)。
ちなワシ元関西人やけど最近の恵方巻とかあんなクソ太いもん邪道やから細かい事は気にせんでええよ。

※4 アワジシマ
ドラゴンクエストのさくしゃであるほりいゆうじせんせいのしゅっしんは淡路島だそうだよ!
そういえば同じ兵庫出身とかで喜んでた記憶が(関西生まれ兵庫と島根育ち埼玉在住)。才能の天と地の差。残酷である。


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